以前に不眠症治療で使用される、オレキシン受容体拮抗薬であるスボレキサント(ベルソムラ)の作用機序についてまとめました。
今回は補足で、服用にあたっての注意点を追加したいと思います。
まずスボレキサントには併用禁忌薬があります。
代謝は主にCYP3Aが関与しており、わずかにCYP2C19も関与しています。
そのためCYP3Aを強く阻害する以下の薬剤は併用禁忌となっています。
・イトラコナゾール(イトリゾール)
・リトナビル含有製剤(ノービア、カレトラ)
・ボリコナゾール(ブイフェンド)
CYP3Aが強く阻害されると、スボレキサントの血中濃度が大幅に上昇してしまうおそれがあります。
スボレキサント(ベルソムラ錠)の規格には20mg、25mg、10mgがあります。
通常、成人にはスボレキサントとして1日1回20mgを、
高齢者には1日1回15mgを就寝直前に投与します。
高齢者に対しては15mgまでとなりますので注意が必要です。
若い方と比較して高齢の方は、スボレキサントの血漿中濃度が高くなりやすいようです。
高齢の方15mgと若い方20mgでほぼ同じ血中濃度になったそうです。
ここでは65歳以上を高齢者と定義し臨床試験を行ったようです。
また上記ほどではなくても、CYP3Aを阻害する薬剤との併用には注意が必要です。
・ジルチアゼム(ヘルベッサー)
・ベラパミル(ワソラン)
・フルコナゾール(ジフルカン) 等
これらの薬剤もCYP3Aを阻害するため、傾眠や疲労等の副作用が増強されるおそれがあります。
併用する際は、1日1回10mgへの減量を考慮し、注意しながら投与します。
10mgへの減量は必須ではありませんが、患者個々の状態に応じて判断をします。
反対にCYP3Aを強く誘導する以下の薬剤と併用すると、効果が減弱してしまうおそれがあります。
・リファンピシン(リファジン)
・フェニトイン(アレビアチン)
服用のタイミングは就寝直前に行うようにします。
空腹で服用した時と比べて、食後に服用すると血中濃度が低下することがあり、入眠効果の発現が遅れるおそれがあるからです。
一般的に食後2時間以上経過すれば、吸収に影響を及ぼす食事の影響もほぼなくなり空腹時と同じような状態に近づきます。
食後2時間以内の服用は避けるようにしましょう。
最後に、他の睡眠薬からの切り替えについてです。
ベルソムラへ切り替える際に、今まで服用していた睡眠薬を急に中止すると、反跳性不眠や退薬症候が生じる可能性があります。
(反跳性不眠:睡眠薬を急に中止したり減量した際に生じる、睡眠薬を服用する前よりもさらに強い不眠)
(退薬症候:睡眠薬を急に中止したり減量した際に生じる、不安や焦燥、振戦、発汗、せん妄、痙攣などの症状)
この切り替えのリスクを下げるために、今まで服用していた睡眠薬を徐々に減量しながらスボレキサントを開始したり、今までの睡眠薬を減量してからスボレキサントを開始する方法があります。
他の睡眠薬からスボレキサントへ切り替えた際は、今までの薬とは寝付く時の感覚が違う可能性があることや、一時的に寝つきが悪くなることを患者に事前に説明しておくことも必要です。
まとめ
・CYP3Aを強く阻害する薬剤とは併用禁忌である
・CYP3Aを中程度阻害する薬剤と併用する際は10mgへの減量を検討する
・通常成人には20mg、高齢者には15mgを使用する
・食後すぐの服用は避け、就寝直前に服用する
・前薬から切り替える際は、反跳性不眠や退薬症候に注意する