イリノテカン(CPT-11)はトポイソメラーゼⅠ阻害薬に分類される薬剤です。
トポイソメラーゼ阻害薬はがん細胞のトポイソメラーゼがDNA鎖のねじれを解消して再結合しようとするのを阻害することで、DNAの複製を阻害します。
トポイソメラーゼにはⅠとⅡがあり、イリノテカンはトポイソメラーゼⅠを阻害します。
イリノテカンの代表的な副作用に下痢がありますが、「早発性の下痢」と「遅発性の下痢」に分けられます。
早発性の下痢
投与24時間以内に生じる下痢です。
発症機序はコリン作動性による副交感神経の亢進で、腸管の蠕動運動が活発化することで引き起こされます。
イリノテカンはアセチルコリンエステラーゼを阻害することで、コリン作用を増強しますが、上記の下痢以外に、この作用で流涙や流涎、発汗や鼻汁等のコリン症状が生じることもあります。
予防
早発性下痢に対しての予防では、上記の発症機序から抗コリン薬であるアトロピンやブチルスコポラミンの投与が推奨されています。
治療
早発性下痢の治療でも、抗コリン薬のアトロピンやブチルスコポラミン投与は速やかに効果があらわれますが、一度症状が出た場合は以降の投与でも同様の症状が生じやすく、前投薬で予防的に投与することも検討します。
遅発性の下痢
投与後4~10日で生じます。
イリノテカンの活性代謝物であるSN-38により腸管の粘膜が障害されることで起こります。
イリノテカンは肝臓でSN-38へと代謝され、グルクロン酸抱合を受けて解毒化されたSN-38Gの状態で胆汁排泄により腸管へ分泌されます。
ですが、解毒化されたSN-38Gは腸内細菌により脱抱合されて再びSN-38へ戻ってしまい、再び吸収されて肝臓へ戻ります(腸肝循環)が、この際に腸管粘膜を障害してしまいます。
予防
腸内のアルカリ化が有効とされています。
SN-38はアルカリ条件下では毒性の低い状態として存在しており、腸管からの再吸収もされにくいです。
アルカリ化薬として炭酸水素ナトリウム2g/日やウルソデオキシコール酸300mg/日が使用されます。
炭酸水素ナトリウムによる便秘を防ぎ、SN-38を含む便を速やかに排泄するために酸化マグネシウム2~4g/日が使用されることもあります。
アルカリ化薬とは反対に腸管内を酸性化する柑橘類や乳酸菌製品の窃取は控える必要があります。
また腸管内でSN-38Gの脱抱合を予防する、半夏瀉心湯をイリノテカン開始3日前から使用する場合もあります。
治療
遅発性下痢の治療では、腸管運動を抑制するロペラミドが使用されます。
(感染性の下痢に対しては使用できません)
使用中は麻痺性イレウスにも注意し、漫然とした使用を行わないようにします。
SN-38からSN-38Gへとグルクロン酸抱合を行うUGT1A1の遺伝子多型についてはこちらです。