シクレスト(一般名:アセナピン)は、多元受容体作用抗神経薬(MARTA)に分類される統合失調症治療薬です。
作用機序や舌下投与の理由についてはこちらにまとめています。
他のMARTAと比較して一番の特徴は舌下錠であることです。
シクレストは初回通過効果を受けやすく、バイオアベイラビリティの低い薬剤であったため、舌下錠として開発されました。
肝臓で代謝を受けやすいシクレストを舌下投与することで、肝臓で初回通過効果を受ける前に脳へ薬を届けることができます。
シクレストによる口の痺れについて
舌下投与であるため、シクレストの添付文書には「口の感覚鈍麻」という特徴的な副作用が記載されています。
発現頻度も10.1%と高めです。
シクレストの有効成分であるアセナピンには、リドカインに類似した局所麻酔作用があるため、舌がしびれるような感じ、口の中が麻痺したような感覚になってしまうことがあります。
口の中にしびれやピリピリした感覚が残っていても、通常では10分~1時間ほどで治まる場合が多いです。
しびれがきつい、1日中続く、口の中が荒れてしまうような場合は使用を中止して、他の薬剤への変更を検討します。
シクレストを飲み込んでしまった場合の対応
本来は舌下投与する薬剤ですが、誤ってシクレストを飲み込んでしまった場合です。
飲み込んでしまうと、シクレストはバイオアベイラビリティが低い薬剤であるので、肝臓でほとんど分解を受けて効果が得られません。
ですが、シクレストは非常に早く溶ける薬剤ですので、口に入れると同時に溶解が始まります。
錠剤のまま飲み込むことは困難であり、多くは舌下から吸収されていると思われます。
そのため、もう一度投与せず、次の服用時間まで待つようにします。
投与後すぐに飲食してしまった場合について
シクレストを投与してから、食べる、飲む、うがいは10分経ってからにします。
投与後すぐに水を飲んだ場合、30分後に水を飲んだ場合と比べて、最高血中濃度やAUCの低下が認められました。
10分後であれば、差はほとんど認められなかったため、10分間は飲食やうがい、歯磨きは控えるようにと、添付文書や患者さん向けの資料に記載されています。
ただ、10分以内に飲食してしまった場合でも8割程度は吸収されているので、もう一度投与せず、次の服用時間まで待つようにします。
他の薬剤がある場合は、最後にシクレストを服用するようにします。