過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome : IBS)は、器質的変化や代謝性疾患がないにもかかわらず、腹痛・腹部不快感と便通異常(下痢、便秘)を主体とする症状が長期間持続もしくは再燃・寛解を繰り替える下部消化管障害です。
便の状態により、便秘型、下痢型、混合型、分類不能型の4つの病型に分類されます。
便秘型は硬便、兎糞便が多く、女性に多いと言われており、
下痢型は軟便、水様便が多く、男性に多いと言われています。
以前に便秘型IBSの治療薬にはリナクロチド(リンゼス)があることを述べました。
今回述べるラモセトロン(イリボー)は下痢型IBSの治療薬です。
ラモセトロンは腸管のセロトニン5-HT3受容体を選択的に阻害することで、アセチルコリンの遊離を抑制します。
アセチルコリンの分泌量が減るため、腸管運動が抑制されます。
また大腸から脳への痛みを伝達する求心性神経終末に存在する5-HT3受容体も遮断します。
これにより大腸伸展の痛みが伝わりにくくなり、腹痛が改善されます。
痛みによるストレスから、さらに消化器症状が悪化するという悪循環を腸脳相関といいます。
IBSではセロトニンが関与していることが解っていますが、下痢型IBSは特にセロトニン5HT-3受容体が関与しています。
ラモセトロンは5HT-3受容体遮断による下痢抑制作用と痛覚伝達遮断作用の2つの作用からこの悪循環を断ち切ってくれるお薬です。
このラモセトロンは男性と女性で用量が異なります。
成人男性
1日1回 5μgを投与 1日最高投与量は10μgまで
成人女性
1日1回 2.5μgを投与 1日最高投与量は5μgまで
となっています。
女性に便秘の副作用が生じやすいという報告があったため、男性の下痢型IBSにだけ適応がありましたが、2015年から男性の半量で女性にも適応が広がっています。
女性のCmaxおよびAUCが男性のそれぞれ1.5倍以上あったとの報告もあります。
このように性差がみられるため、ラモセトロンは男女で投与量が異なります。
女性では男性よりも便秘や硬便の発現率が高いため注意が必要です。
ラモセトロンは副作用で便秘や硬便が生じることがあり、服用中、3日以上連続で排便がない場合には服用を中止します。
またラモセトロンの使用は漫然と継続せず、投与開始3ヶ月を目処に、服用の継続、終了を検討します。
まとめ
・ラモセトロンは5HT-3受容体遮断による下痢抑制作用と痛覚伝達遮断作用の2つの作用から下痢型IBSを改善する
・ラモセトロン服用中、3日以上連続で排便がない場合には服用を中止する
・女性では男性よりも便秘や硬便の副作用が生じやすい
・成人女性では1日1回2.5μgを投与 1日最高投与量は5μgまで(成人男性の半量で使用する)