消化性潰瘍治療薬である、プロトンポンプ阻害薬(PPI)とH2受容体拮抗薬。
どちらも酸分泌を抑える攻撃因子抑制薬です。
ここではこの2種類の薬剤の違いと特徴を見ていきたいと思います。
まずPPIの作用機序ですが、胃壁細胞のH+分泌の最終段階であるプロトンポンプ(H+/K+ーATPase)を特異的に阻害して酸分泌を抑制します。
一方、H2受容体拮抗薬は胃粘膜壁細胞の基底膜側に存在するヒスタミンH2受容体でヒスタミンと拮抗することで胃酸分泌を抑制します。
どちらも胃酸分泌を抑制しますが、PPIの方が酸分泌抑制作用は強力とされています。
またPPIはプロトンポンプとの結合が不可逆的であり、酸分泌抑制作用は24時間以上と長時間作用が持続します。
作用の強さや、持続性はPPIの方が勝っているとされていますが、作用発現時間はH2受容体拮抗薬が2~3時間、PPIは6時間と、速やかに症状を改善したい場合はH2受容体の方が適しています。
作用の強く働く時間帯にも違いがあります。
PPIは夜間よりも日中に強く働き、H2受容体拮抗薬は日中よりも夜間に強く働きます。
PPIはプロトンポンプを阻害していますが、プロトンポンプは食事により活性化するため、夜間よりも日中に活性化しているからです。
H2受容体拮抗薬は食事の影響を受けない基礎酸分泌に作用するため、日中よりも夜間の酸抑制作用が強いです。
投与初期の潰瘍治療率は、PPIの方がH2受容体拮抗薬よりも高いとされるが、最終評価時点(6~8週)では潰瘍治療率はほぼ同等となっています。
またPPIには投与制限が設けられており、主に初期治療での使用が適しています。
(原則、胃潰瘍は8週まで、十二指腸潰瘍は6週まで。
NSAIDsまたは低容量アスピリン投与時の消化性潰瘍発症抑制では制限はありません)
H2受容体拮抗薬は投与制限がなく、維持療法ではこちらが第一選択となります。
PPIの消失経路は主に肝代謝により消失していきます。
代謝酵素が関与しているので遺伝子多型による個人差や薬物相互作用に注意が必要です。
H2受容体拮抗薬は腎排泄により消失します。
(ラフチジンは肝代謝)
腎機能の低下した患者では投与量に注意しなくてはいけません。
また、PPIよりも速やかに強い効果を発揮するP-CABという薬剤もあります。
以下、今までの特徴をまとめました。
作用機序
PPI:プロトンポンプの阻害
H2R:H2受容体に拮抗
酸抑制作用
PPI:強力
H2R:PPIに劣る
作用発現時間
PPI :遅い(6時間~)
H2RA:早い(2~3時間)
作用持続性
PPI :24時間以上
H2RA:数時間
作用の時間帯と強さ
PPI :日中>夜間
H2RA:日中<夜間
内視鏡治癒率
4週:PPI>H2RA
最終評価時(6~8週):PPI≓H2RA
代謝・排泄
PPI :肝代謝
H2RA:腎排泄(ラフチジンは肝代謝)
投与期間制限
PPI :あり(主に初期治療として投与)
H2RA:なし(主に維持療法として投与)