EGFRとは
上皮増殖成長因子受容体(EGFR:Epidermal growth factor receptor)は上皮細胞などに発現が認められている膜貫通型の受容体です。
EGFRは細胞の増殖、分化、維持の調節に関与しています。
リガンド(増殖因子)がEGFR受容体に結合すると、EGFRは二量体を形成して細胞内領域にあるチロシンキナーゼが活性化されます。
これにより、細胞内へ細胞増殖のシグナル伝達が起こります。
がん細胞では、このEGFRに変異があったり、過剰に発現している場合があり、がん細胞の増殖が起こりやすい状態となっています。
抗EGFR抗体薬の作用機序
抗EGFR抗体薬は、細胞表面にあるEGFRに結合することで、リガンドが結合できないようにします。
その結果、細胞内へ細胞増殖のシグナル伝達が阻害されます。
EGFRは細胞増殖のスイッチの役割をしていますが、抗EGFR抗体薬は、細胞増殖のスイッチを止める薬剤です。
「抗体」は特定の物質(抗原)に対して特異的に結合する蛋白質です。
抗EGFR抗体薬は、細胞表面のEGFRに対して特異的に結合します。
RASについて
EGFRから細胞増殖のシグナル伝達が起こっていく途中で、「RAS(ラス)」という遺伝子が関与しています。
RAS遺伝子には「野生型」と「変異型」があります。
「野生型」は遺伝子変異をしていない通常のRAS遺伝子です。
「変異型」は遺伝子変異のあるRAS遺伝子であり、EGFRからのシグナルが無くても、活性化してしまい細胞増殖が起こってしまいます。
そのため、抗EGFR抗体薬でEGFRからのシグナル伝達を止めても、RASに変異があると、シグナル伝達が止まらず抗EGFR抗体薬の効果が得られません。
抗EGFR抗体薬の効果があるのは、RASが「野生型」の場合です。
抗EGFR抗体薬の投与前に、このRAS遺伝子についても野生型か変異型かの確認を行います。
抗EGFR抗体薬は、EGFRに遺伝子変異がなくても使用できますが、RAS遺伝子が「野生型」の場合でないと効果が得られなくなってしまいます。
抗EGFR抗体薬は大腸がんなどで使用されますが、RAS遺伝子変異型は大腸がんの約50%で認められています。
注意すべき副作用
・インフュージョンリアクション
インフュージョンリアクション(Infusion reaction)は、分子標的薬投与時24時間以内にみられる過敏症反応です。
初回投与時に起こらなくても、2回目以降の投与時に起こることもあります。
・皮膚障害
抗EGFR抗体薬が皮膚細胞のEGFRを阻害するために、ざ瘡様皮膚炎、皮膚乾燥、爪囲炎が生じる場合があります。
EGFRはがん細胞表面だけでなく、皮膚を構成している細胞にも発現しているためと考えられています。
・間質性肺疾患
咳き込みや息切れ、発熱など間質性肺疾患が疑われる初期症状があらわれた場合は、すぐに申し出るよう指導します。
・電解質異常
マグネシウム、カリウム、カルシウムといった電解質濃度が低くなることがあります。
低マグネシウム血症は、尿細管のヘンレ係蹄に発現しているEGFRが阻害されることで、ろ過されたマグネシウムの再吸収が阻害されたり、また腸管でのマグネシウムの吸収が阻害されるためと考えられています。
抗EGFR抗体薬の種類
・アービタックス(一般名:セツキシマブ)
・ベクティビックス(一般名:パニツムマブ)