カドサイラ(トラスツズマブ エムタンシン)はトラスツズマブとエムタンシンを結合させた抗体薬物複合体です。
規格
カドサイラ点滴静注用100mg(注射用水5ml添付)
160mg(注射用水8ml添付)
適応症
・HER2陽性の手術不能又は再発乳癌
・HER2陽性の乳癌における術後薬物療法
用法用量
1回3.6mg/kg 3週間間隔で点滴静注
初回投与時は90分以上かけて投与する
初回の忍容性が良好であれば、2回目以降は30分間まで短縮できる
調製時の注意点
カドサイラの調製では、注射用水、生理食塩水以外を使用することができません。
ブドウ糖溶液と混合した場合、蛋白凝集を起こしてしまいます。
また、ブドウ糖溶液と同じ点滴ラインを用いた同時投与も行うことができません。
添付の注射用水で溶解して、20mg/mLの濃度とした後、必要量を抜き取り、生理食塩水250mlで希釈します。
(カドサイラ点滴静注用100では5ml、160では8mlの注射用水が添付されており、それで溶解すると20mg/mLの濃度となります)
HER2について
ヒト上皮成長因子受容体(HER:human epidermal growth factor receptor)には、HER1(EGFR)、HER2、HER3、HER4の4種類があります。
HER2はそのうちの1つです。
HER2などは細胞膜表面に存在しています。
リガンド(増殖因子)が結合した他のHERと二量体(ダイマー)を形成すると、細胞内領域にあるチロシンキナーゼが活性化されます。
(チロシンキナーゼは特定の標的(基質)の蛋白質をリン酸化することで活性化する酵素です。)
これにより細胞内へシグナル伝達が起こり、細胞増殖が起こります。
HER2が過剰に発現していると、増殖因子がなくてもHER2同士または、他のHERと二量体を形成して、次々と細胞内へ増殖のシグナル伝達が送られてしまい細胞増殖が続きます。
がん細胞の中にはHER2をたくさん持つものがあり、この過剰に発現しているHER2により、がん細胞の増殖が次々と行われていきます。
抗体薬物複合体とは
抗体薬物複合体(ADC:Antibody Drug Conjugate)は、抗体と薬物を結合させたものです。
がん治療薬では、抗体と抗がん剤が結合しています。
抗体が特定の分子を持つがん細胞に結合する性質(抗原特異性)を利用して、抗がん剤を直接がん細胞まで到達させます。
そこで抗がん剤ががん細胞を攻撃します。
このように抗体薬物複合体は、薬剤を効率的にがん細胞へ届け、正常細胞への影響が少なくなるように設計された薬剤です。
作用機序
カドサイラは抗HER2抗体薬であるトラスツズマブと細胞障害性をもつチューブリン重合阻害薬のエムタンシン(DM1)が結合した抗体薬物複合体です。
カドサイラは抗HER2抗体薬のハーセプチン(一般名:トラスツズマブ)と同じように、細胞膜表面にあるHER2のドメインⅣに結合します。
すると、細胞内へのシグナル伝達が抑えられ、細胞増殖を抑制することができます。
また、ハーセプチン(トラスツズマブ)がHER2受容体に結合すると、NK細胞が効率よくがん細胞を攻撃するようになります。
この作用を抗体依存性細胞障害活性(ADCC活性)と言います。
さらに、カドサイラはHER2に結合して細胞内に取り込まれた後、エムタンシンを遊離します。
エムタンシンは細胞分裂に必要なチューブリンという蛋白質に結合して重合を阻害することで、細胞障害を発揮します。
このようにカドサイラは「抗HER2抗体薬」と「化学療法薬」の2つの薬の効果が期待できる薬剤です。
副作用
抗HER2抗体薬による、インフュージョンリアクションや心毒性に注意が必要です。
また、末梢神経障害、間質性肺疾患、肝機能障害、血小板減少症なども報告されています。
治療対象
「HER2陽性転移・再発乳癌」では、抗HER2療法の一次療法で
・ハーセプチン(一般名:トラスツズマブ)
・パージェタ(一般名:ペルツズマブ)
・タキソテール(一般名:ドセタキセル)
の3剤併用療法が選択されることが多いです。
タキソテール(一般名:ドセタキセル)による毒性が生じて継続困難な場合は抗HER2薬 2剤で継続します。
そして効果がみられなくなってきた場合の二次療法では
・カドサイラ(トラスツズマブ エムタンシン)
の単独療法が推奨されています。