ハーセプチン(一般名:トラスツズマブ)は抗HER2抗体薬であり、HER2過剰発現が確認された乳癌・胃がんに使用されます。
規格
ハーセプチン注射用60(溶解液:日局注射用水3.0ml)
ハーセプチン注射用150(溶解液:日局注射用水7.2ml)
適応症
HER2過剰発現が確認された乳癌
HER2過剰発現が確認された治癒切除不能な進行・再発の胃癌
用法用量
HER2過剰発現が確認された乳癌にはA法またはB法を使用する
HER2過剰発現が確認された治癒切除不能な進行・再発の胃癌には他の抗悪性腫瘍剤との併用でB法を使用する
・A法:1日1回 初回投与時は4mg/kg 2回目以降は2mg/kg
90分以上かけて1週間間隔で点滴静注
・B法:1日1回 初回投与時は8mg/kg 2回目以降は6mg/kg
90分以上かけて3週間間隔で点滴静注
調製時の注意点
ハーセプチン(一般名:トラスツズマブ)の調製では、注射用水、生理食塩水以外を使用することができません。
ブドウ糖溶液と混合した場合、蛋白凝集を起こしてしまいます。
また、ブドウ糖溶液と同じ点滴ラインを用いた同時投与も行うことができません。
添付の注射用水で溶解して、21mg/mLの濃度とした後、必要量を抜き取り、生理食塩水250mlで希釈します。
(ハーセプチン注射用60では3.0ml、150では7.2mlの注射用水が添付されており、それで溶解すると21mg/mLの濃度となります)
HER2について
ヒト上皮成長因子受容体(HER:human epidermal growth factor receptor)には、HER1(EGFR)、HER2、HER3、HER4の4種類があります。
HER2はそのうちの1つです。
HER2などは細胞膜表面に存在しています。
増殖因子が結合した他のHERと二量体(ダイマー)を形成すると、細胞内へシグナル伝達が起こり、細胞増殖が起こります。
HER2が過剰に発現していると、増殖因子がなくてもHER2同士または、他のHERと二量体を形成して、次々と細胞内へ増殖のシグナル伝達が送られてしまい細胞増殖が続きます。
がん細胞の中にはHER2をたくさん持つものがあり、この過剰に発現しているHER2により、がん細胞の増殖が次々と行われていきます。
作用機序
抗HER2抗体薬であるハーセプチン(トラスツズマブ)は、細胞膜表面にあるHER2のドメインⅣに結合します。
すると、細胞内へのシグナル伝達が抑えられ、細胞増殖を抑制することができます。
また、ハーセプチン(トラスツズマブ)がHER2受容体に結合すると、NK細胞が効率よくがん細胞を攻撃するようになります。
この作用を抗体依存性細胞障害活性(ADCC活性)と言います。
乳がんや胃がんであっても、HER2が多く発現していなければ、抗HER2抗体薬を使用しても効果が低くなってしまいます。
HER2タンパクの量を調べる検査を行い、HER2タンパクの量を確認してから抗HER2抗体薬を使用するかどうかを決めます。
心毒性について
ハーセプチン(一般名:トラスツズマブ)の重大な副作用の1つに「心障害」があります。
HER2はがん細胞だけでなく心筋細胞にも存在しています。
そのため、ハーセプチンを投与すると、心筋細胞も影響を受けることで心不全が生じる場合があります。
抗HER2抗体薬による心障害は、休薬することで改善すると言われており、心機能の改善後は再び抗HER2抗体薬を使用するか検討することができます。
投与前には心エコー等で心機能が十分であるか確認を行います。
投与開始後も、定期的な心機能検査が必要です。
患者さんには普段と同じ動作で息切れをするようになった、動機がする、息苦しさ等の症状があらわれた場合は申し出るように指導します。
インフュージョンリアクションについて
インフュージョンリアクション(Infusion reaction)は、分子標的薬投与時24時間以内にみられる過敏症反応です。
ハーセプチン(一般名:トラスツズマブ)では、約40%の患者さんにおいて報告されています。
症状は軽度から中等度で、初回投与時に起こりやすいと言われています。
インフュージョンリアクションの発現を回避するための「前投薬」に対しては、有用性が確認されていません。
インフュージョンリアクションの回復後に、前投薬を行った上で再びハーセプチンを投与した際、副作用が認められなかったケースもあれば、再びインフュージョンリアクションが発現したケースもあるようです。
また、ハーセプチン(一般名:トラスツズマブ)は「抗HER2療法」で、パージェタ(一般名:ペルツズマブ)と併用される場合があります。