エリル(ファスジル塩酸塩)の作用機序
エリル(一般名:ファスジル塩酸塩)はくも膜下出血治療薬です。
30mg/2ml/A
適応症
くも膜下出血術後の脳血管攣縮およびこれに伴う脳虚血症状の改善
用法用量
1回30mg、50〜100mLの電解質液または糖液で希釈し、1日2〜3回、約30分間かけて点滴静注。
くも膜下出血術後早期に開始し、2週間投与することが望ましい。
くも膜下出血と血管攣縮
脳は外側から硬膜、くも膜、軟膜の3層で覆われています。
くも膜と軟膜の間を「くも膜下腔」と呼びます。
このくも膜下腔に出血が生じてしまったものを「くも膜下出血」と言います。
原因のほとんどは、脳動脈瘤(脳血管の一部がこぶのように膨れたもの)の破裂によるものです。
突然の激しい頭痛や嘔吐、意識障害が生じます。
くも膜下出血の治療では再出血と、脳血管攣縮の予防が重要です。
脳血管攣縮はくも膜下出血の合併症です。
脳の血管が収縮して血流が悪化し、脳虚血や脳梗塞を起こすおそれがあります。
発症から72時間~14日の間に起こることが一般的です。
脳血管攣縮の薬物療法ではエリル(ファスジル)やキサンボン(オザグレル)が有効であるとされています。
エリルの作用機序
血管平滑筋の異常収縮により、脳血管攣縮が生じてしまいます。
・血管平滑筋の収縮
カルシウムイオン(Ca2+)がカルモジュリンと結合し、ミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)を活性化します。
活性化されたミオシン軽鎖キナーゼはミオシン軽鎖をリン酸化します。
リン酸化されたミオシンが増えるとアクチンとミオシンの滑り込み反応が起こり平滑筋が収縮します。
・血管平滑筋の弛緩
リン酸化されたミオシン軽鎖がミオシン軽鎖ホスファターゼ(MLCP)により脱リン酸化されると平滑筋の弛緩が生じます。
血管平滑筋を弛緩されるミオシン軽鎖ホスファターゼ(MLCP)は、Rhoキナーゼという酵素に抑制されています。
このRhoキナーゼがミオシン軽鎖ホスファターゼによる脱リン酸化を抑制しているので、血管平滑筋の弛緩が抑えられています。
エリルはこのRhoキナーゼを阻害することで、ミオシン軽鎖ホスファターゼが抑制されずに働くようになり、ミオシン軽鎖が脱リン酸化されます。
これにより血管平滑筋の弛緩が起こり、脳血管攣縮を抑制することができます。